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東京地方裁判所 平成11年(ワ)8532号 判決

原告 株式会社 東京三菱銀行

右代表者代表取締役 岸曉

右訴訟代理人弁護士 近藤基

同 小野孝男

右訴訟復代理人弁護士 松田竜太

被告 株式会社オバタ

右代表者代表取締役 櫻井宣行

右訴訟代理人弁護士 高木義明

主文

一  被告は原告に対し、金一三億五二九二万一六二八円及び内金八三五一万三九四四円に対する平成一〇年一二月四日から、内金一億二七五八万二八四〇円に対する平成五年一月一日から、内金九億二三六三万六五二〇円に対する平成五年二月二七日から、各支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告は主文同旨の判決及び仮執行宣言を求め、被告は請求棄却の判決を求めた。

二  事案の概要及び争点

1  本件は、原告が後記の新小幡工業に対し、後記貸金<1>ないし<3>の三口の貸金残債権を有していたところ、新小幡工業から営業譲渡を受けた被告が、後記甲一〇ないし甲一二文書を配布すること等によって、新小幡工業の右債務の引受をした、又は、商法二八条の債務引受広告をしたと主張して、原告が被告に対し、貸金<1>ないし<3>の残債務の支払を求めている事案である。

2  原告の請求原因事実は、要旨次のとおりであり、これは当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨及び認定事実末尾に掲記の証拠によって認定することができる(末尾に証拠を掲記していない事実は当事者間に争いがない)。

(一)  旧小幡工業の銀行取引約定の締結

小幡工業株式会社(以下「旧小幡工業」という)は、昭和六一年二月二七日、原告(旧商号株式会社三菱銀行)との間で銀行取引約定書を締結し、銀行取引を開始した。右銀行取引約定書では、旧小幡工業が原告に対する債務を履行しなかった場合には、旧小幡工業は年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による損害金を支払うことが定められている(甲一)。

また、旧小幡工業は、昭和六二年一〇月九日、原告に対し、原告から外国通貨による借り入れを受けた場合、借入債務の履行にあたっては、当該通貨を原告所定の為替相場(予め為替予約が締結されている場合は、その予約為替相場)で換算した円貨で支払う旨及び利息の計算方法は年三六〇日の日割計算による旨を約した(甲二)。

(二)  日本共立医科工業との合併と新小幡工業への商号変更

旧小幡工業は、平成二年一月二九日、日本共立医科工業株式会社に吸収合併され、同時に右日本共立医科工業は、小幡工業株式会社(以下「新小幡工業」という)へ商号変更をした。

(三)  新小幡工業の金銭借入れ

原告は、新小幡工業に対し、前記銀行取引約定に基づき、手形貸付の方法により、次の通り金員を貸し渡した。

(1)  貸金<1>(甲四のlないし3)

平成四年四月二八日・三一三万八〇〇〇USドル

返済期限・平成四年一〇月二八日、利率・年六・八七五パーセント

返済までの利息額 一〇万九六六六・五六USドル(三一三万八〇〇〇USドル×六・八七五パーセント÷三六〇日×一八三日)

返還期限の為替予約レート 一USドル=一三五・一三円

(2)  貸金<2>(甲五の1ないし3)

平成四年六月三〇日・一〇一万二〇〇〇USドル

返済期限・平成四年一二月三一日、利率・年五・六八七五パーセント

返済までの利息額 二万九四一八・二七USドル(一〇一万二〇〇〇USドル×五・六八七五パーセント÷三六〇日×一八四日)

返還期限の為替予約レート 一USドル=一二六・〇七円

(3)  貸金<3>(甲六の1ないし3)

平成四年八月三一日・七三六万二〇〇〇USドル

返済期限・平成五年二月二六日、利率・年五・二五パーセント

返済までの利息額 一九万二一七八・八七USドル(七三六万二〇〇〇USドル×五・二五パーセント÷三六〇日×一七九日)

返還期限の為替予約レート 一USドル=一二五・四六円

(四)  以上の貸金<1>ないし<3>はそれぞれ、各返済期限に、予め締結されていた為替予約に従い、次のとおりの円換算額に確定した。

(1) 元金

貸金<1> 四億二四〇三万七九四〇円(三一三万八〇〇〇USドル×一三五・一三円)

貸金<2> 一億二七五八万二八四〇円(一〇一万二〇〇〇USドル×一二六・〇七円)

貸金<3>九億二三六三万六五二〇円(七三六万二〇〇〇USドル×一二五・四六円)

以上合計 一四億七五二五万七三〇〇円

(2) 利息

貸金<1> 一四八一万九二四二円(一〇万九六六六・五六USドル×一三五・一三円)

貸金<2> 三七〇万八七六一円(二万九四一八・二七USドル×一二六・〇七円)

貸金<3> 二四一一万〇七六一円(一九万二一七八・八七USドル×一二五・四六円)

以上合計 四二六三万八七六四円

(五)  新小幡工業の倒産と被告への営業譲渡

(1)  新小幡工業は、平成四年一一月二日、東京手形交換所の取引停止処分を受け、倒産した。

(2)  翌平成五年一月一九日、新小幡工業の営業のうち、医療用器械器具等の製造販売の営業譲渡を受けるために、三和化研工業によって、医療用器械器具並びにその部品の製造販売等を目的として被告が設立され、同年三月二一日ころ、新小幡工業は被告に対し、右医療用器械器具等の製造販売の営業を譲渡した。なお、被告設立と同時に、新小幡工業は日本共立医科工業株式会社へと商号変更をした(以下、この商号変更後も「新小幡工業」という)。

(3)  被告と新小幡工業とは、本店所在地及び役員が同一である。また、被告の会社登記簿に記載されている目的は「不動産の販売」及び「有価証券の取引」の二点を除き、新小幡工業の目的と全く同一である。さらに、約四〇名いた新小幡工業の従業員のうち、数名を除く大部分が被告に採用された。

(六)  「業況報告書並びにお願い」等の配布ないし送付等

被告は、次の甲一〇文書及び甲一一文書を原告を含む各金融機関及びその他の新小幡工業の取引先に、甲一二文書を原告を含む各金融機関に、それぞれ配布ないし送付した。

(1)  平成五年三月一〇日付文書(甲一〇。以下「甲一〇文書」という)

甲一〇文書の記載内容は後記のとおりである。

(2)  同年一一月一五日付文書(甲一一。以下「甲一一文書」という)

甲一一文書の記載内容は後記のとおりである。

(3)  平成七年二月一五日付文書(甲一二。以下「甲一二文書」という)

甲一二文書の記載内容は後記のとおりである。

(4)  現実に、被告は、新小幡工業から営業譲渡を受けた後、別紙返済表記載のとおり、平成五年五月六日から毎月新小幡工業の借入金債務の弁済を行っており、この金額は、平成一〇年末時点で、合計二億七〇三〇万円となっている。この弁済方法は、被告が、被告自身の普通預金口座から弁済資金を払い戻して弁済するというものである。

(5)  甲一〇ないし甲一二文書の配布及び被告自身による弁済の事実からすれば、後記のとおり、被告は新小幡工業の全債務を引き受けたか、又は、全債務を引き受ける旨の広告をしたものである(この項は原告の主張であり、後記のとおり、本訴の主要な争点である)。

(七)  残債務額

(1)  被告が平成五年五月六日に弁済を始めた時点において、原告の新小幡工業に対する債権額は次のとおりであった(弁論の全趣旨)。

貸金<1> 三億五三八一万三九四四円(預金との相殺等により減少)

貸金<2> 一億二七五八万二八四〇円(変化なし)

貸金<3> 九億二三六三万六五二〇円(変化なし)

合計 一四億〇五〇三万三三〇四円

(2)  その後、被告は、前記のとおり合計二億七〇三〇万円を弁済したので、原告はこれを貸金<1>に充当した結果、貸金<1>は八三五一万三九四四円となり、貸金<1><2><3>の合計額は、平成一一年一月一日時点で一一億三四七三万三三〇四円となった(甲一三)。

(八)  よって、原告は被告に対し、貸金<1><2><3>の合計一一億三四七三万三三〇四円、前記未払利息合計四二六三万八七六四円、貸金<1>の確定遅延損害金一億七五五四万九五六〇円(明細は別紙損害金計算書のとおり)の合計一三億五二九二万一六二八円、並びに、貸金<1>の残元金八三五一万三九四四円に対する最後の一部弁済日の翌日である平成一〇年一二月四日から、貸金<2>の元金一億二七五八万二八四〇円に対する返済期限の翌日である平成五年一月一日から、貸金<3>の元金九億二三六三万六五二〇円に対する返済期限の翌日である平成五年二月二七日から、各支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割り計算)による約定遅延損害金の支払を求める。

3  争点

(一)  以上の事実を前提に、原告は、第一次的に、甲一〇ないし甲一二文書の配布及びその後の被告による弁済の事実によれば、被告は原告に対し、平成五年三月ころ、仮にそうではないとしても、遅くとも同年末までに、新小幡工業の原告に対する借入金債務全額を引き受ける旨を、少なくとも黙示的に約束したものであると主張し、次いで、仮に右債務引受が認められないとしても、被告が甲一〇ないし甲一二文書を配布したことは、商法二八条の広告をしたときにあたるから、被告は新小幡工業の借入金債務全額を弁済する責任を負う、と主張する。

(二)  これに対し、被告は、右原告主張を争い、被告が設立された理由は、甲一〇文書に明記されているとおり、新小幡工業の債務をそのまま負担していくことの回避にあったのであるから、それにもかかわらず、被告がわざわざ新小幡工業の債務を引き受けるはずがなく、甲一〇ないし甲一二文書は、被告が新小幡工業と同一の業務を開始し推進するとの趣旨の取引先に対する挨拶状にすぎない、もし仮に甲一〇ないし甲一二文書に債務引受の意思表示が含まれていたとしても、その意思表示は無条件に債務を引き受けるとの意思表示ではなく、被告の利益の範囲内で弁済するとの条件付の意思表示であって、この条件を承諾した債権者のみとの間で有効な債務引受となるところ、原告はこの条件を承諾していない、と主張する。

(三)  そこで、本訴の争点は、右原告の主張の成否にある。

三  裁判所の判断

1  前記請求原因事実、甲七、甲一〇ないし甲一二、乙一及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  新小幡工業は、医科用器械器具並びにその部品の製造販売等を業とし、昭和一九年一月に設立された会社であったが、平成四年三月ころから運転資金に不足を来たし、商品仕入先である株式会社ホギメディカルや三和化研工業株式会社の支援を仰いでいたが、結局、同年一〇月ころには新小幡工業を倒産という形で処理する方針が決められた。そして、新小幡工業は、同年一〇月二一日に第一回目の手形不渡りを出し、同年一一月二日には東京手形交換所の取引停止処分を受け、事実上倒産した。

(二)  他方で、新小幡工業の倒産はやむを得ないが、従業員の雇用先を確保し、かつ、新小幡工業の取引先を確保するため、新小幡工業の営業のうち、医療用器械器具等の製造販売の営業譲渡を受ける目的で、資本金全額を三和化研工業株式会社が調達して、前記のとおり、翌平成五年一月一九日、被告が設立され、同年三月二一日ころ、新小幡工業は被告に対し、右医療用器械器具等の製造販売の営業を譲渡した。そのため、被告と新小幡工業とは、本店所在地及び役員が同一であり、被告の商業登記簿に記載されている営業目的は、不動産の販売及び有価証券の取引の二点が除かれているだけで、その余は新小幡工業の営業目的と全く同一である。さらに、約四〇名いた新小幡工業の従業員のうち、数名を除く大部分が被告に採用された。

(三)  右営業譲渡後、被告は、平成五年三月一〇日付の甲一〇文書を、被告ら金融機関及び新小幡工業の取引先に配布した。

甲一〇文書は「業況報告書並びにお願い」と題するもので、宛先は「関連各位」となっている。そして、同文書中の財産目録として、平成五年一月二〇日現在の新小幡工業の積極財産及び消極財産が記載されているが、負債の部、借入金の欄に記載されている「(ハ)銀行」は原告を指すものであるとの原告主張については、被告は争うことを明らかにしない。

また、「今後の見通し、および計画」欄に被告の設立理由が記載されているが、ここでは、被告設立の理由として、<1>倒産会社あるいは事故会社とは取り引きしないとする得意先があること、<2>現在まで、毎日の支払いを現金で支払いしているが、非常に不便であり、かつ、安全性に問題があるので、当座取引を速やかに実現したいとの社員の声が大きいこと、<3>従来の債務を引き継ぐにあたり、仕入先に不安感が非常に強く、再び事故を起こすのではないかとの不安が持たれていること、<4>新小幡工業が振出した手形の返済が未済の仕入先があること、<5>新規社員の採用に有利であり、在籍社員の心理的安定を図ることを掲げている。

そして、右被告設立理由の記載に続けて「きたる平成五年三月二一日以降をもって、名実共に新会社のもとで営業を行い、事故発生以降の旧債を新会社が引継ぎ、金融機関により減免して頂きました利息に関しましては、新会社が責任を以て履行致します。元金返済につきましても新会社の利益の範囲内で返済を続けます。現時点におきましては、元金返済の金額を明確に確定できませんが、現在よりは必ず改善しうると確信致しております」と記載されている。

そのほか、同じく「今後の見通し、および計画」の「貸付金の処理について」欄で、貸付金として新小幡工業倒産の原因にもなった野田病院に対する貸付金債権に言及した上で「当面は通常の営業活動に全力を傾注する考えでおりまして、営業成績が軌道に乗り、借入先に対する金利支払いと元金返済等がスムーズに行えるようになってのち、不良債権の整理などに力を注ぐ覚悟でございます」と記載されている。

また、同じく「今後の見通し、および計画」欄の末尾には「手前勝手なお願いばかりで誠に恐縮で申しわけ御座いませんが、何卒ご支援とご鞭撻のほど、伏してお願い申し上げます」との依頼文が記載されている。

なお、甲一〇文書には、新小幡工業の印及び代表者印を押印した代表取締役櫻井宣行(被告代表者と同一人物である)名義の債権者宛て弁済計画案が添付されている。

(四)  次に被告は、平成五年一一月一五日付の甲一一文書を、原告ら金融機関及び新小幡工業の取引先に配布した。

甲一一文書は「業務報告書並びにお願い」と題するもので、宛先は「関連各位」とされている。

本文書では「株式会社オバタ(日本共立医科工業株式会社を含む)の半年間の業務報告をさせて頂き」と記載され、さらに「私共は株式会社オバタと日本共立医科工業株式会社とは一体と認識しておりますので、以下(今後共)の報告は両者連結の報告とさせていただきます」との記載がなされている。

甲一一文書中の財産目録には、平成五年九月二〇日現在の新小幡工業の積極財産、消極財産が記載されているが、その負債の部、借入金の欄に記載されている「A銀行」は原告を指すものであるとの原告主張については、被告は争うことを明らかにしない。

甲一一文書中には「全社一丸となり推進し結果、金融機関への返済を一円でも多く履行したいと頑張ってまいります」とか「借入金の返済にあたりましては、現在の返済額で勘弁して頂き年一度の決算確定後の利益の状況に応じて平成六年五月二〇日までに追加返済させて頂き度、また、利益は色々な科目に姿を変えておりますので資金繰りも勘案致し、現状で出来る最大限の返済額を確定すべく努力いたしますので、よろしくお願い申し上げます」と記載されている。

(五)  さらに、被告は、平成七年二月一五日付の甲一二文書を、原告ら金融機関に配布した。

甲一二文書は「返済金の見直しについて」と題する文書で、その中には、新小幡工業の野田病院に対する債権の一部が回収でき、また回収約束ができたので「従来よりの返済金額に追加して、別紙のごとく返済させていただき度、ご了承の程よろしくお願いいたします」との記載や、新小幡工業所有の不動産が売却できたら「返済金は再度見直しさせていただきます」との記載がされた上、新小幡工業の各金融機関に対する借入金債務の返済予定表が添付されている。そして、右返済予定表に記載の「A銀行」は原告を指すものであるとの原告主張については、被告は争うことを明らかにしない。

(六)  このように甲一〇ないし甲一二文書を配布した他、被告は、被告自身の普通預金口座から弁済資金を払い戻して弁済するという方法で、別紙返済表記載のとおり、平成五年五月六日から毎月新小幡工業の借入金債務の弁済を行っており、この金額は、平成一〇年末時点で、合計二億七〇三〇万円となっている。

2  以上の事実を前提に、原告の主張について考えてみる。

(一)  原告は、甲一〇ないし甲一二文書の配布と被告自身による弁済の事実から、被告が原告に対し、平成五年三月ころ、仮にそうではないとしても、遅くとも同年末までに、新小幡工業の原告に対する借入金債務全額を引き受ける旨を、少なくとも黙示的に約束したものであると主張する。しかしながら、被告が設立されたのは、新小幡工業の債務の負担のない新会社を設立して営業を承継せしめようとされたからであって、被告の意思としても、新小幡工業の債務全額を当然に引き継ぐつもりはなかったものと推認できること、原告においても、被告からの甲一〇ないし甲一二文書を受領した以上に、この記載内容を受け入れ、被告にその旨の意思表示等をしたとの事実を認めることはできないこと、これらの事実を考えてみると、いまだ、黙示的であっても、被告が新小幡工業の債務引受をしたと認めることはできない。この原告の主張は理由がない。

(二)  原告は、次いで、仮に右債務引受が認められないとしても、被告が甲一〇ないし甲一二文書を配布したことは、商法二八条の広告をしたときにあたるから、被告は新小幡工業の借入金債務全額を弁済する責任を負う、と主張するので検討する。

(1)  ところで、商法二八条は、営業の譲受人が譲渡人の営業上の債務を引き受ける旨を特に広告した場合には、債権者に対し、真実には債務引受契約等の債務負担行為をしなかったとしても、これをしたような外観を作出したことになるところ、一般に営業譲渡人の債権者は営業譲渡契約の内容を知り得ない第三者であるから、営業譲受人が譲渡人の営業上の債務を引き受けるかのような外観が作出されるとこれを信頼するので、この信頼を保護するため、特に禁反言の責任を認めたものである。

(2)  しかして、被告が原告を含む金融機関や取引先に配布した甲一〇ないし甲一二文書には、前記認定のとおり、その文書中に、いずれも原告に対するものを含めた新小幡工業の債務に関し「事故発生以降の旧債を新会社が引継ぎ」とか、利息を「新会社が責任を以て履行致します」、元金は「新会社の利益の範囲内で返済を続けます」との記載(いずれも甲一〇文書)や、「金融機関への返済を一円でも多く履行したい」とか「年一度の決算確定後の利益の状況に応じて平成六年五月二〇日までに追加返済させて頂き度」との記載(いずれも甲一一文書)や、「従来よりの返済金額に追加して、別紙のごとく返済させていただき度」とか不動産売却後「返済金は再度見直しさせていただきます」との記載(いずれも甲一二文書)がある。そうすると、これらの記載のある甲一〇ないし甲一二文書を、原告を含む債権者に対して配布したことは、被告において、新小幡工業の債務を引き受ける旨の広告をしたものというべきである。被告は、これらは被告が新小幡工業と同一の業務を開始し推進するとの趣旨の取引先に対する挨拶状にすぎないと主張するが、採用できない。

(3)  被告は、この点に関し、被告設立の目的からすれば、被告が新小幡工業の債務を引き受けるはずがないと主張するところ、被告設立の目的が、前記のとおり、新小幡工業の債務と資産等を分離することにあったのは、被告主張のとおりであると考えられるが、そのことと被告が新小幡工業の債務を引き受ける旨の広告をすることとは、その広告を信頼した債権者が詐害行為取消権の行使を控える等の行為に出ることが予想されるから、必ずしも矛盾しないのであって、甲一〇ないし甲一二文書によって被告が右広告をしたとの認定を左右することはできない。

(4)  また、被告は、甲一〇文書の「事故発生以降の旧債」を引き継ぐと記載してあることは、逆に、本件請求権を含む事故発生までの旧債は引き継がない趣旨であると主張するが、合理的な解釈とはいえないし、かえって、甲一〇文書中には、引き継ぐ債務と引き継がない債務を区別した記載はないことや、手形不渡事故後の債務は、遅延損害金以外ほとんど発生していないのではないかと考えられることからすれば、「事故発生以降の旧債」とは「事故発生時に負担している(存在している)新小幡工業の債務」という意味であると解するのが相当である。

(5)  さらに被告は、もし仮に甲一〇ないし甲一二文書に債務引受の意思表示が含まれていたとしても、その意思表示は無条件に債務を引き受けるとの意思表示ではなく、被告の利益の範囲内で弁済するとの条件付の意思表示であると主張しているところ、この主張は、債務引受広告についてもしているものと考えられるので、この点について判断すると、前記甲一〇ないし甲一二文書の記載内容、ことに甲一〇文書では「旧債を新会社が引継ぎ」との文言の後に、利息は「新会社が責任を以て履行致します」、元金については「新会社の利益の範囲内で返済を続けます」と記載されており、文末に「手前勝手なお願いばかりで…」との依頼文が記載されていることからすると、被告は、甲一〇文書で、新小幡工業の債務引受広告をし、その上で、引き受けた債務の支払方法については債権者の協力を得たいとのお願いをしているにすぎないものというべきであって、このような記載から、被告が条件付の広告をしたものとみることはできないのである。この点の被告の主張も採用できない。

(三)  そうすると、原告の請求は、商法二八条の適用によって理由がある。

四  以上によれば、本訴請求は理由があるのでこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 佃浩一)

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